あたしとキヨは小学校からの友だちで。 いつも二人でつるんで何かをしていた。 誰かにひやかされようが、関係なかった。 ただやっぱり、あたしは女で、キヨは男だから。 いつしか同じくらいだった目線は、あたしが見上げるようになっていて。 同じくらいだった手や肩幅だって、キヨは全部あたしを追い越した。 それでもあたしたちの関係は昔から変わらない。 高校生になった今でも、気まぐれに連絡をして、気まぐれに一緒にいる。 互いがすきなときに、すきなように、すきなことをする。それでよかった。 ただそれは昔からずっと変わらない友だちというカテゴリーの中の出来事。 手を繋いだりキスをしたりましてやセックスをしたり、なんてことは全くなかったし、 そんなこと別に望んじゃいなかった。あたしもキヨも。 だってキヨにはマミちゃんという彼女が。 あたしにはサカモトくんという彼氏が。 恋愛と友情は別、おそらくあたしとキヨの考えは一致していた。 そう、「していた」のだ。あくまでも「おそらく」だが。 ただ確かに言えることは、マミちゃんとサカモトくんはどちらにとっても既に過去形ということだ。 「ね、」 1週間ぶりくらいに連絡をとって、あたしとキヨは一緒にいた。 夕暮れ時の教室、1つの机に向かい合うかたちで。 あたしはキヨの呼びかけに、いつものように「なに?」と返した。 媚びるわけでも興味を持つわけでもなく、あくまで「聞くよ」という合図のような一言。 そんなあたしに、キヨはだいたい突拍子もない事を言い出す。 「パンダのしっぽって何色だっけ?」とか、 「ギョーザのひだは2枚重ねて折るんじゃなくて片側だけで折るんだ」とか。 流そうと思えば流せる会話。でもそのどうでもいい会話にあたしは落ち着いた。 構えないで話していられる、その気まぐれさが丁度よかった。 ただ、今日キヨの口から出た言葉は、いつもと違う色をしていた。 「俺さ、がサカモトくんと付き合い始めたって聞いて寂しかったんだよね」 いつもの表情でキヨが言う。だからあたしも深く考えずに同じように返した。 「あたしだって、キヨがマミちゃんと付き合い始めたって聞いて寂しかったよ」 ほぼオウム返しだったにもかかわらず、キヨの表情は変わらなかった。 いつもの、何かを考えているようで、何も考えていないような顔。 相手の色恋沙汰に触れるのは初めてだった。 キヨから振ってくることも、あたしから振ることもなかった。 気にならなかったのか、避けていたのか、選ばなかったのか、興味がなかったのか。 それとも、必要がなかったのか。 話さない理由なんて、考えたこともなかった。 ただそれでも、表情の変わらないキヨに、 まだこれもいつものたわいない会話の一部なのだと思っていた。 「なんで?」 「キヨこそなんで?」 「そこがさ、実はよくわかんないんだよね」 「あたしも、よくわかんないんだよね」 つられるかのように、同じようなことを同じように返す。 いつもと同じ。口から出るままに話し、相手に問い、そして答え、会話が終わる。 いつもそうだった。 いつもはそうだった、のに。 「サカモトくんと手つないだ?」 「うん。キヨは?」 「うん。俺もマミちゃんとつないだ。じゃあキスは?」 「うん。した。キヨは?」 「した」 そう短く返事をしたキヨは「それじゃ、」と一呼吸置いて続けた。 「・・・それ以上は?」 一瞬、いつもと違う空気が流れた、ように感じた。 (・・・これは詮索?) あたしは真っ直ぐにキヨの目を見る。 キヨの目も真っ直ぐにあたしを見ていた。 その目はいつもと同じだった。それなのになぜか、心が騒いだ。 それでもあたしはその目に見えない何かに気圧されることなく、口を開く。 戸惑いなんて言葉、あたしたちの間にはない。 ましてや、隠すことも。 「してない、よ。・・・キヨは?」 「俺もしてない」 らしくない、と思った。互いにさらりと言っているのに、どこか、何か、不自然。 こうして目を見て話すなんて当たり前なのに、そんなことに若干の戸惑いを覚える。 そしてあたしは気付く。 今のキヨの言葉を、どこかで「よかった」って思っていたあたしがいたことに。 「ねぇキヨ」 「ん?」 「あたし安心してる」 「俺も安心してる」 「キヨがマミちゃんを抱いてなくてよかったって思ってる」 「俺も、がサカモトくんに抱かれてなくてよかったって思ってる」 いつものようなオウム返し。 いつものあたしたちらしくないオウム返し。 互いを横目で見あう。 ふざけているわけではない。変なことを言っているわけでもない。 それなのにこのらしくない感じは何なのか。 浮かんだ問いへの答えは、気付いてしまうと案外あっさりしたものだった。 それは至極簡単なこと。 本音、だ。 「あたしたちらしくない会話だよね」 「らしくない、じゃなくて今までこういう話をしなかっただけだよ」 「そうかも。うん、そうだ、たぶん」 「この話をする時が今日この時だっただけ」 「考えてること、一緒かな」 「おそらくね」 「ねえ、キヨ」 「ん?ああ、」 いつものように呼ぶ。そしていつもと違うことをする。 少し首を傾げる。目を閉じる。唇が重なる。当たり前のように。 他の人ともしたことはあるのに、キヨのキスひとつに感じた。 優しく触れ合いながら、脳裏に浮かんだのは目を閉じる前のキヨの顔。 優しく細めた目。すべてわかっているように優しく笑う口元。 胸の奥がきゅっとなった。キヨも同じかな。だったらいいな。 いや、きっと同じ。 おそらく。 絶対。 ごく自然に行われたこの行為は、あたしたちにとっては既に当然のことであって、 気まぐれなんかじゃない。 決して。 |
独 占 欲
-------------------------------------------------------------------- なんか自己満足になっちゃいました。 イージーゴーイングらしからぬ作品でした。←おそらく 最後はキスしかしてないつもりで書いたんだけど、 個人個人、お好きなように解釈してください。 2008/08/30 TOUCH IN 2010/02/5 なつめ Powered by NINJA TOOLS
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