鼻 垂 れ 小 僧 に 愛 の 手 を





席替えをした。
そしたら、今まで全然接点のなかった丸井の隣になった。
丸井はクラスのムードメーカー的存在で、みんなから人気がある。わたしもずっと話してみたいなぁって思ってたから、隣になって「やった!」って思ったんだけど、なんだか今日の丸井は元気がないように見えた。移動してきてからずっと机に突っ伏してるし。もしかしてこの席替えが不服だったのだろうか。
(まさかわたしの隣がいやだったのかな・・・そうだったらどうしよう・・・)

「・・・ねえ丸井」

おそるおそる、隣の席で突っ伏したまま動かない丸井に声をかけた。

「・・・・・・・・・ん?」

わたしの呼びかけに丸井はのろのろと顔を上げる。
なんと彼の鼻穴にはティッシュが詰まっていた。

「・・・・・・・・・え、と、丸井、えっ・・・と・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・?・・・あ、」

どうやら私の表情を見て、自分が鼻穴にティッシュを詰めていたことを思い出したらしい。
(忘れるぐらい長い時間詰めていたのか・・・?)

「・・・・・・風邪?・・・花粉症?」
「・・・・・・・・・・・・風邪」
「・・・そっ、か。お、お大事にね」
「・・・・・・おう」

微妙に気まずい空気になってしまったので、私はそう言って自分の机に視線を戻した。
なんだか見てはいけないものを見てしまった気分だ。初めてのコンタクトだったというのに。

(ど、どうしよう・・・気まずい・・・)

「ぶぇっくしょん!」

突然隣から大きなくしゃみが聞こえてきて、驚いて再び隣を見る。
すると丸井が伸び上がって机の前の方を覗きこんでいた。
彼の視線を追うと、その先は丸井の前の席の椅子の上で。そしてそこには・・・。

「・・・・・・・・・・・・あ」

起こった出来事が容易に想像できて思わず出てしまった声。
その声に丸井がこっちを向く。

「・・・・・・・・・見ちまった・・・?」

コクンと頷く。わたしの目に映ったのは、丸井の前の席の椅子の上にある物体。
そう、それは紛れもなく丸井の鼻から勢い良く飛んでいったであろう丸まったティッシュだった。

「・・・なんか、ごめん」
「いや、謝られても困んだけど。つーかさ、前のヤツには内緒ってことで」

片方の鼻にティッシュを詰めたまま、ひょいと丸井は飛んでしまったティッシュを片付けた。
そしてごそごそと制服のポケットをあさり、そこから取り出したガムを1枚私に差し出す。
賄賂か。安いけどちゃっかりしている。

「・・・うん、まあこれで手を打ってあげるよ」
「・・・・・・お前、なに笑ってんだよ」
「ふふ、ごめん。だっておかしいんだもん」
「仕方ねえだろい。鼻水垂れてくんだから・・・ってあーまた垂れてきやがった」

片鼻を指で押さえながら鞄を開けてティッシュを探す丸井。
けれどようやく出てきたティッシュ袋にはティッシュが入っていなくて。
私は自分の鞄を開け、ちょっとお高い保湿ティッシュを鼻垂れ丸井に差し出す。

「サンキュ、

、と言われ、名前を覚えていてくれたことに少しばかり安心する。
そんなわたしの心境も知らず、当の本人は「すげーいいティッシュ」と言いながら、またしてもそれを鼻に詰めていた。わたしがそんな丸井を見て笑うと、つられたように丸井も笑った。

次の日、新しい保湿ティッシュを1つ渡されると共に、丸井とメールアドレスを交換した。

『これからも何かとヨロシク』と、すぐさま送られてきたメールに、
『こちらこそよろしくね』そう返信して始まる席替え2日目。

さて、今日は彼のどんな新しい一面が見られるのかな――









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いつしか日記で書いた風邪引きブン太に手加えてUPしてみました。
まぁ、なんというか、大したことなくてごめんなさい笑

2008/05/22 web拍手お礼UP
→2013/01/26 名前変換プラスして再録
なつめ



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