わたしは現在両想い進行中。
相手は2つ年上の忍足侑士先輩。
なのに、先輩との関係は手をつなぐとことまで。
ねえ先輩、先輩はわたしのことどう思ってるの?

いつの間にか2月も下旬。
雪はなく日も差しているけれど、相変わらず風はつめたい。ぴゅうと吹く冬風に、隣を歩く忍足先輩は「さぶー」と首にまいたマフラーに少し顔を埋めた。そんな先輩の本命大学の受験も目の前に迫っている。当の本人は「大丈夫やろか〜」なんて言っているけど、わたしはたぶん受かると思っている。まだ半年だって一緒にいないけど、見た目から受ける軽そうな印象とは違って、中身が真面目なのはよくわかっているつもりだ。
わたしたちが付き合いだしたのは去年のクリスマスイヴ。だからまだ2ヶ月くらいしか経っていない。付き合おうと言ってくれたのは忍足先輩。マネージャーとして働くわたしは、先輩に憧れてはいたものの、話す機会なんてそうそうなかった。それでもマネージャーを頑張れていたのは、先輩の近くにいれるからという単純な理由があったから。試合の時に近くで応援できるだけで、どうしようもなくうれしかった。
だから、今こうやって隣に先輩がいてくれて、手を繋いで歩いている。あの頃・・・先輩に憧れていた頃からするとあり得ないくらい幸せなはずなのに、最近不安ばかりが募るのは、たぶん、その先がないから。
(キス、したいなぁ・・・)
そう思って先輩を見上げ、唇を見つめる。すると目が合って、にこっと微笑まれた。
(なんか、ただ可愛がられてるだけのような気がする・・・)
ぎゅっと繋いだ手を握ってみる。
「ん?どうかしたん?」
「・・・先輩、先輩はわたしのことどう思ってるんですか?」
「なんや?いきなり」
「や、どう思ってるのかなーって思って」
「どうって、かわええなぁ好きやなぁて思とるよ」
「それってもしかして、妹みたいでかわいいってことですか?」
「なに言っとんねん。そんなわけあるかい」
「じゃあ・・・」
「ん、なんや?」
「じゃあ、どうして・・・どうして、キスしてくれないんですか?」
そう言うといきなり忍足先輩は立ち止まってしまった。
数歩進んでしまったわたしが振り返ってみると、先輩の目はまんまるく見開かれていて。気のせいか、まばたきが多いような気がする。それになんかおどろいているような・・・。
「せ、先輩?」
呼びかけるとズレていた焦点がわたしに合う。
同時に先輩の口が開いた。
「や、あんな、それには実は深い理由があんねん」
「・・・は?」
そう言うと、先輩はわたしの両肩の上に手を置いた。
(真面目な顔してる・・・)
じっと見つめると「そんな見つめんなや」と言って先輩は少し照れたような素振りを見せた。
「あんな、俺かてお前とキスしたいわけや」
「・・・はい」
「せやけど、なんかな、こう、あんまりにもがかわええもんやから、なんか悪いことするみたいでな」
「・・・は?」
「あ〜だから!触れたらアカンような、そんな気がしてならんっちゅーことで・・・」
目の前の先輩はたぶん、自分で何言ってるかわかんなくなってる。
その上、自分で言ってることが恥ずかしいのか何なのか、若干顔が赤くなっている。
「あーなんか上手く言えんのやけどな、つまりは・・・」
「・・・先輩」
「・・・ん?なんか言うた?」
「わたしは先輩と・・・・・・いえ、先輩はわたしとキスしたくないんですか?」
「そ、そんなことあるわけないやろ!できるもんなら毎日だって、」
その瞬間、わたしは一歩前に出て、先輩のマフラーの端をぐっと引っ張った。
触れ合う前、見えたのは先輩の驚いた顔。
強引にしたキスはお世辞にも上手くできたとは言えないけれど、それでも、きっかけとしては十分だったんじゃないかと思う。
「・・・やりおったな」
「へへん」
「してもうたからには、もう遠慮はないで?」
「そう簡単にいくわたしじゃないですよ?」
「ほほぉ・・・なかなか言うもんやな」
「ええ言いますとも。なんたって先輩のカノジョですから」
すると先輩は「ほうか」と言って何か考え込んだ様子だ。
「どうしたんですか?」
「なぁ、とりあえずもっかいせえへん?」
「はい?」
「ほら、一応俺らの初キスっちゅーことで今日は記念日になるわけやし」
「さっきしたじゃないですか」
「や、記念日に2回するんもええ記念になると思うんや!」
(く、くだらない・・・)
「そんなイヤそうな顔すんなや」
思ったことが顔に出ていたのか、先輩がそう言う。
見上げるともう既に先輩のうれしそうな顔が近づいて来ていて。
(・・・もう、する気満々じゃん)
観念して目をつむると、どこからともなくやってきた小さな雪が頬に舞い降り溶けた。
そのあと唇に降りてきたのは、やさしくてあったかいキスだった。
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ちょっと変態ちっくな忍足先輩なのでした。
がかわいくてかわいくて仕方ないんです。
拍手再録ということで名前変換1箇所しかなくてごめんなさい。
ちなみにsweet heartとは恋人のことです^^
2007/2/25 なつめ
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