新学期早々席替えをした
毎時間隣の席で突っ伏しているのは
性格だけでなく 髪の毛までやんちゃなやつ
と な り の せ き
(ち ょ っ と 、 き り は ら !)
そう心の中で言いながら、シャープペンの先(もちろんノックの方)で彼の左腕を数回つっつく。
今は英語の時間。そして今切原の列が当たっていて、一番後ろに陣取る彼まであと2人。
切原の当たる部分は多分この単元で一番長い英文だ。
長いわりに文法は簡単なのだが、多分切原なら長さだけで参ってしまうだろう。
そう思って私はさっきから切原をつついて起こそうとしているのである。
すると私のしつこいつつき行為により、切原が少し身じろぎをした。それを見て私は更にそのスピードを上げる。
(ちょ、あと1人であんたの番なっちゃったよ!早く起きて・・・!)
そう思った瞬間、やっと切原が少し顔を上げた。何とも眠そうな顔。
けれどその途端目の前の子が立って発表しはじめたのをみて、瞬時にやばいと理解したようだ。
そんな彼を見て、私は和訳を書いたノートを右へと差し出す。丁寧に付箋で“次ここから!→”という印までつけて、だ。
「はいじゃあ次の文・・・切原ー」
切原がノートを受け取ってすぐ先生が切原の名前を呼んだ。
切原はガタッと椅子をならして席を立ち、少したどたどしくも私の訳文を読む。
「よし、そこまでー」という先生の掛け声に、切原は一つ安堵の息を漏らしてゆっくり席についた。
「マジ助かったわ、サンキュ」
「いえいえ」
「俺、この席になってからいきなり英語優秀になってんな」
「まぁ、いいんじゃない?」
そう笑って返すと、切原は私に借りたノートを差し出しながら、少し訝しげな顔をした。
私はその表情を不思議に思いながらも、返されたノートを受け取る。
「つーかお前はいいのかよ?」
「へ?」
「だって時間かけて訳したやつを、何の苦労もしてない俺が読んでんだぜ?」
「ああ、そういうこと」
「フツーだったらヤじゃん。つーか俺ならそんなことゼッテーしねぇし」
「そりゃあフツーだったらいやかもね」
「だろー?つーかだったらなんで、」
「じゃあさ、切原がフツーじゃないんだって」
「はあ!?俺がフツーじゃねぇってどういうことだよ!」
その口調からすぐに切原が腹を立てたのがわかって、自分の言い方がまずかったことを悟る。
けれど、どーせ俺はとんでもないバカだよ、ああそうだよ、なんてふて腐れる切原はやっぱりバカだと思うけどどこかかわいい。
「あ、ごめんごめん、そういう意味じゃなくてさ」
「じゃあどーいう意味なんだよ」
「まぁあれだよ、私にとって切原がフツーじゃないんだよ」
「・・・お前、さっきと言ってること一緒」
「じゃあ言い方かえるよ」
そう言って私はノートの一番後ろのページの端を小さくちぎって、そこにペンを滑らせる。
わたしの言葉を理解できない鈍い切原に、一言言ってやらなければ。
「なに書いてんだよ」
「いいからちょっと待って」
「口で言えばいいじゃんか」
「口で言ってわからない切原には紙に認めた方がいいかと思って」
「・・・・・・んだよ」
「はい。これ読んで」
そう言ってポイと丸めた紙切れを投げる。
机から落ちそうになったそれを右手でキャッチして、切原はそれを開き出す。
お前もっと開きやすく畳めよなーとかブツブツ言いながら紙を開く切原の手が、それを開ききったところで止まった。
「・・・は、マジ・・・で?」
「嘘書いてどーすんの」
「へえ・・・そっか・・・へえ・・・」
なんかリアクション薄いなぁと思って隣を覗き見ると、隣の彼は鼻の下を人差し指でこすっていて。
口元は明らかににやけていた。
「それで満足ですかね?」
「いやあ、満足っしょ」
「それで切原的にはどーなんですか?」
「俺的に?」
「そう俺的に」
「んーそうだなァ、とりあえず、イヤじゃねえかな」
「そっか、よかった」
その言葉にホッとした。平静を装いつつも、ドキドキしていた心臓に安堵の風が吹く。
新学期早々この席になってよかったかもー、なんて目を細めて笑う切原を見て、これからの日々が楽しみになる。
「とりあえず、そういうことだからよろしくね」
「おう、俺も何か楽しみになってきちゃった感あるし」
さて今日の出来事が凶と出るか吉と出るか
それはきっと神のみぞ知る
―――You are my special !
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web拍手再録につき名前変換なしです。
お前のところはあえてお前のままにしておきました(・ω・)
(※ヨミ 認めた→したためた)
2007/5/10 なつめ
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