『これから俺ん家で寂しい奴らで集まってクリスマスするんやけど、来ん?』

忍足からそんなメールをもらったのはついさっき。寂しい奴らにわたしが含まれていることにちょっとムッときたが、本当のことだから仕方ない。『他に誰が来るの?』『岳人とジローと宍戸や』『女の子がわたししかいないんだけど』『まぁこのメンバーならええやろ』そんなメールを数分の間で交わし、まぁいっかとわたしも急遽参加することになった。がっくんとジローくんと宍戸くんは高校のとき同じクラスで馴染みがあったため、それほど迷わなかったんだと思う。

それからすぐに支度をして家を出る。手には家にあった適当なお菓子を詰め込んだ袋。下手に何か買って行っても迷惑かもしれないと思ったからだ。(忍足は用意周到なやつなので。)
夕方6時。誰に何も言われずに外出できるのが一人暮らしのいいとこだと思う。家事がめんどうだったり、時折異常に心細くなったりするけれども。この時期の夕方ともなれば、あたりは既に真っ暗。わたしの家は住宅街にあるので目立ったイルミネーションもなく、吐く息の白さが際立つ。雪はないから歩きやすいけど、クリスマスだけは雪が降って欲しいな、なんて都合のいいことを思ってしまう。普段は降るな降るなと思っているのに。

少し歩いて大通りのバス停に行くと、ちょうど大学へ行く時に乗るバスが来た。忍足の家は大学の近くだったので、多分それに乗れば良かったはず。しばらくバスに揺られ、大学よりひとつ前のバス停で降りた。バス停から記憶を辿って見たことのある道を歩く。暗くて、一度来たときとは違う道を通っているような感覚にとらわれる。けれど、見覚えのある変わった形の家や、それら新しい家とは不似合いな古い商店が頼りになった。

忍足の家には前に一度だけ行ったことがある。わたしと同じようにアパートで一人暮らし。その時は確か、忍足の恋愛相談にのってた頃だったと思う。忍足に恋愛相談されて困ったがっくんが、大学の学部が一緒だと言うだけでわたしに頼んできたのだ。まぁ忍足の好きな子がわたしの友人だったのは予想外だったろうけど。それまでのわたしは忍足を外見でしか知らず、勝手に女の子の扱いに慣れているスカした奴だと思っていた。でも、どーしたらええかわからん、とか言って頭を抱える忍足の姿を見て、なんだか今までのイメージが壊れて、親近感が湧いた。その忍足の悩める恋愛は、結局忍足がどうこうする前にその子に彼氏が出来てしまって終わったんだけれど、それまでほとんど関わることのなかったわたしとの友情は残った。まぁ友情と言えども、同じ講義で偶然会ったときに話したりするくらいなんだけれど。

だから今日いきなりメールが来たのには驚いた。たぶん一番最近会ったのは12月始まってすぐだったと思う。何より何故あの仲良しメンバーの中にわたしを呼んでくれたのかわからなかった。

(・・・多分ここだ)

忍足の家と思われるドアの前に来て、息をはぁーと吐き出しチャイムを押した。
すると中から「はいよ〜」という声がして、ガチャとドアが開く。
出迎えてくれたのは、何故かコートを着た忍足。

「おー来たか。しかしよぉ覚えてたな、家」
「まぁなんとなく記憶手繰ってきたら着いたよ。迷ったらメールしよって思ってた」
「そか。暗いし、1回しか家来たことあらへんから今迎えに行こうと思ってたんや。出遅れたな、俺」
「あ、だからコート着てたんだ。わたしてっきり部屋が寒いのかと」
「そんなケチやあらへんって」

忍足は笑って、ほな寒いし中入り、とわたしを家の中に招き入れた。
あったかい空気と忍足の家の匂いに包まれる。

「おじゃましまーす。・・・って、あれ?まだ誰もいないの?」

玄関から見える部屋にはまだ誰もいなかった。
真ん中にこたつが置いてあって、その上にミニツリーが乗っているだけだ。

「あ・・・ああ、まだ来てへんよ。が一番乗り」
「そっか」
「適当にくつろいでてな」
「ありがと。あ、これ」

持ってきたお菓子を渡す。けれど特に何も準備されていないテーブルを見て、主食の方がよかった?と問うと、ピザでも注文しよう思てたから大丈夫や、ありがとな、と忍足はまた笑った。

「今日来るメンバー聞いてさ、」

コートを脱いでふたりでこたつに入り、忍足が入れてくれた紅茶をすすりながらわたしは口を開いた。忍足の家に忍足とふたりきりなのに、これから誰か来ることもあってかわたしは全く緊張していなかった。
ん?と忍足が紅茶を飲みながらわたしの方へ視線をよこす。

「やっぱりって思った」
「やっぱりて何が?」
「だってクリスマスに一人でいそうなのってその辺じゃん。まさか跡部がくるわけないし」
「ははっ、せやな。ちゅーか俺が一人言うのもおかしない?」
「えー忍足はロンリークリスマス似合うよ。ていうかわたしが一人の方がおかしいって」
「なんやねんその差別は」
「だってこんな可愛くて素敵な女の子がひとり・・・」
「そやったら俺もそうやん。こんなカッコ良くて頼もしい男がひとり」
「いやーあの時の忍足のへこみようをみたらそんなこと言えないでしょ」
「・・・またその話かい」
「だってすごい落ち込んでたし」
「そりゃ誰だって好きな奴に自分以外の彼氏できたら落ち込むやろ」
「だけど、まさかあんなにへこむなんてねぇ・・・」
「うっさいわ!」

顔を赤らめる忍足が面白くて、ついついからかってしまう。あーもうにはかなわんなぁ、なんてそっぽを向く忍足は同い年だけどどこか可愛いと思った。

「ねー忍足、それにしてもみんな遅くない?」

時計の針は既に8時を回っていた。
お腹もそろそろ飲み物じゃもたないような感じになってきている。

「ねえ忍足、何時集合にしたの?」
「あー・・・せやなー何時やったっけな・・・あ、ちょい紅茶入れてく、」

慌てて席を立とうとした忍足の腕を掴む。
おかしい、なんか、おかしい。

「ねぇ忍足、」
「・・・・・・」
「ちょっと、目逸らさないで」

語気を強めると、忍足の目がわたしの方を見た。
この顔つき、絶対おかしい。なんか隠してる。

「今日のメンバー誰だっけ?」
「・・・・・・がっくんとジローと宍戸・・・」
「だよね、じゃあちょっとわたしメールしてみる」

そう言ってバッグからケータイを出し、アドレス帳を開く。
あ、あった、とがっくんのメアドを選択し、本文を打ち始めるとすぐにケータイを掴まれた。

「忍足、メール打てないよ」
「・・・ええねん、打たんで」
「ねえ、みんな来るの?」
「・・・・・・嘘ついてすまん。ホントは誰も来ぃへんねん」

そう言って忍足は一度上げた腰をまた下ろした。

「どうして嘘ついたの?」
「ああでも言わんと来てくれんかと思って」
「でもだからって、」
「すまん。騙すかたちになってもうてホンマに悪いと思っとる。でもに会いたかってん。クリスマスに」
「え、なんで、わたし・・・」
「ここまで言うてわからん?俺、すきやねん、のこと」

忍足のまっすぐな瞳に捕らわれる。
全く予想外だった一言に、動揺した。
何か言わなきゃ、と心がせかすけれど、頭が働かない。

「え、えっと・・・ごめん。その、何ていうか、急すぎて何て言っていいかわかんなくて」
「ええねん、返事なんて」

忍足のその言葉に、え?と顔を上げると、忍足はあーと言いながらガシガシと頭をかいた。

「ホンマはまだ言うつもりなかったんやけどなぁ。どっかで段取り間違えたみたいや」
「段取り?」
「そう、告白までの段取り」
「そんなの考えてたの?」
「まぁちょっとはな。せやかて、俺のこと全然男として意識してへんやろ?」
「男という意識はあるけど、恋愛対象とは考えてなかった・・・ね。ごめん」
「謝らんでええねん。いきなり俺が恋愛相談なんて持ちかけたせいかもしれんし」

まぁあの頃はのこと好きになるなんて思ってなかったんやけどな、と忍足は少し笑って付け足した。

「とりあえず、まぁ、そないなことで、俺の気持ちはこうだけど今まで通りでええから」
「今まで通りでいいの?」
「ええよ」
「ずーーーーーーーっとこのままでいい?」
「うっ・・・・・・ずっとは、イヤや」
「あはは、でもそう言われちゃったらわたしも忍足のこともうそういう風にしか見れないし」
「俺はそういう風にのこと見てきたっちゅーのになぁ。何で気付かへんのかなぁ」

テーブルの上に片肘をついて、残念そうな表情の忍足。

「や、だからごめんて、」
「こんなにすきやのに」
「ちょっ、」
「あーもう開き直ろ。俺はがすきーすきすきすきーめちゃめちゃすきー」
「ちょっ、やめてよ、何か急にどきどきしてきたじゃない」
「どうぞどうぞふんだんにどきどきして」
「だって今ここにふたりきりでしょ?」
「?そやけど」
「わたし食われるんじゃ・・・」
「なんでそうなるねん!」
「だって好きな女の子が自分の部屋に、ってムラムラするんでしょ?男って」
「雑誌の影響受けすぎやろ。まぁ確かに全くしないというわけではないけれど」
「やっぱり!!(身の危険!!)」

急いでこたつの中に身を隠す。
忍足はそんなわたしを面白そうな目で見ながらひとつ溜め息を吐いた。

「今まで通りにしてくれ言うとるのにそんなことせぇへんよ」
「・・・ほんと?」
「聖なる夜に誓ってしません」
「・・・ほんとに?わたしが寝ちゃっても?」
「寝るんか」
「や、万一の話」
「・・・そんときはとりあえず顔隠して寝てくれ」
「なにそれ」
「キスしてまうかも」
「!やだやめてよ」
「せやかて好きな女が寝てたらなぁ・・・さすがに・・・ちょっと」
「じゃあ帰る」
「すまん!何もせんからここに居たって!」
「・・・絶対だよ」
「何もしません」
「約束」

小指を差し出して、ゆーびきーりげんまん、と古い約束をする。
初めて触れた忍足の指は長くて、男の人の手だなって実感した。



その後、ピザを頼んだ忍足が、「それにしてもキスくらいで・・・」と呆れたように呟いたので、
「ファーストキスくらい合意の上でしたいの」
と言うと、忍足は一瞬きょとんとした顔をして、
「それは大事やな」
と、きっと真っ赤になっているであろうわたしの顔を見て、笑った。



(―――きっと来年のクリスマスは―――――――)







                                    I give you my word for it...



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めりーくりすまーーーーーーーーーーーーーーーーーーす!
クリスマスにクリスマスネタ書いたのは初めてです。
というかむしろクリスマスネタ初めてです笑
突発的に浮かんだネタの産物です。
(※訳 I give you my word for it→絶対だよ、誓うよ)

2007/12/24 なつめ



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この想い、聖なる夜に誓うよ。どうかキミに届きますように――