まわりの喧騒も耳に入らないくらいの緊張
手に自然とこめられる力
期待と不安の交錯する想いを胸に
深く深呼吸をして、いざ





サ ク ラ 咲 ケ





まだ風がつめたく、桜のつぼみも固くとじられている三月。
わたしは高校受験の合格発表を見るため、親友のと志望校へ来ていた。はこのまま立海大付属高に進むため、今日はわたしの付き添い。なかなか掲示板に近づけないでいるわたしの手をとって、は群がる人の中へわたしを導いた。もみくちゃにされながら辿りついた掲示板の目の前で、わたしは手の中の受験票の番号と、掲示板の番号を照らし合わせる。

「・・・、あった?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・あ、あった!」
「え!ホント!?番号見せて!」

そう言い終わらないうちにはわたしの手の中にある受験票をひょいっと取った。受験票と掲示板とを交互に見るの隣では、たぶん合格したのだろう、掲示板を写メしている子がいた。わたしはぼーっと自分の番号を見つめる。

(受かった、んだ・・・!)

じわじわと込み上げてくる実感。
それを噛みしめる間もなく、がわたしに抱きついてきた。

「きゃーホントだ!あった!!やった!やったね!」

ホントは嬉しさのあまりに抱きついてしまうのはわたしの方だと思うんだけど。でも、がそれだけわたしの合格を自分のことのように受け止めてくれていることがわかってうれしかった。

今回の受験は、不安で不安で何度も「受験なんか」って思った。嫌になった。投げ出したくなった。でも、友達、親、みんなが支えてくれたからここまで頑張ってこれた。もその中の一人。それに、なにより彼が応援してくれたから。わたしのだいすきな彼が、全力で応援してくれたから。それが大きなパワーになったんだと、心からそう思う。

「あ、ねえ、連絡しないの?ヤツ」

バイブの鳴る携帯を鞄から出しながら、思い出したようにが言う。

「んーするよ?」
「早くしてあげないと、心配しすぎて死んじゃうんじゃない?」
「死んじゃうて大袈裟な・・・」
「や、だってアイツ絶対のことすきだし」
「そうかなぁ・・・」
「うん。つーかすきって言うよりだいすき?」
「そうだったらいいなぁ・・・へへ」
「へへってあんた・・・ほら、無事合格したんだから、この勢いで恋愛も実らせたら?」

ここでの言う“ヤツ”、というのは、わたしをずっと応援してくれていた彼のこと。彼、と言っても付き合ってるわけではない。仲良しこよしな関係である。・・・と言いつつもわたしは彼に惚れているわけで。の言うように、わたしが彼のカノジョになれるという可能性がないわけではない、と思う。にもかかわらず未だ告白していないのには、二つ理由がある。一つは、受験を控え、ここで万が一振られてダメージをくらったら立ち直れないと思ったため。もう一つは、彼がわたしの幼馴染である蓮二の後輩だから。彼は何だかんだで蓮二になついているから、付き合うにしろ振られるにしろ、なんかやりづらいと思ったのだ。

「ま、あとは次第だし。頑張りなよ?」

そう言うにお礼を言って別れ、歩きながら携帯を開く。発表の終わった昇降口の前は、いつの間にか溢れかえるような人だかりもなくなり、閑散としていた。アドレス帳でさがすのは、一つ年下の彼の名前。かわいくもあり、生意気でもあり、そしてなによりだいすきな彼。



“切原赤也”



(ああ合格って伝えたら、すっごい笑ってくれるんだろうな・・・)



そんな赤也の笑顔を想像して、思わず笑みがこぼれた。










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2007/02/18 なつめ



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