サクラの花舞う四月
着慣れない制服で、期待や不安を抱えながら歩く新入生を目で追いながら
わたしたちもまた新たな空気をまとって見慣れた校門をくぐる





ステップ バイ ステップ





朝、自分の下駄箱に行くと見慣れない靴が入っていた。あれ、誰のだろ?そう思って辺りを見回すと、周りにいた子たちは皆見たことのない顔ばかり。何気なく足元に目線を移すと、彼女らの靴には自分のとは違う色のラインが入っていた。その色は1つ下の学年の色。そこでようやく、学年が変わって下駄箱も変わったことを思い出した。あわてて隣の隣の下駄箱へ行ってみると、そこには自分と同じ色のラインをもった靴を履く、見慣れた子たちの顔。それに一安心して、わたしも鞄から靴の入っている袋を取り出して、外履きを脱ぐ。

「はよ」

後ろから声がして、振り返ってみると、ちょっと寝癖の残る赤い髪をした丸井がいた。両手をポケットに突っ込んで、いかにもかったるそうな感じだ。

「おはよ。寝坊したの?始業式早々」
「ちげっつの。弟が皿割っちまったから片付けてたんだよ」

丸井は三人兄弟の一番上。学校ではそんな風に見えないけれど、実は結構面倒見がいい。
内履きに履き替え脱いだ靴を下駄箱へしまうと、丸井も片方の足でもう一方の靴のかかとを踏んで外履きを脱いだ。

「それで弟くん、ケガはなかったの?」
「ん、まぁなかったけど」

そう言ってポケットに突っ込んでいた左手をわたしの方に突き出した。人差し指に絆創膏が巻きつけられている。

「片付けた俺がケガしちまった」
「あーもう何やってんだか」
「でもが舐めてくれればこんな傷すぐ治っ・・・」
「はあ!?朝から何言ってんのよ。寝ぼけてんじゃない?」

他のクラスの子が変な目でこっちを見てる。やめてよ、こーいうトコでそういう冗談言うの。
わたしは鞄でバコッと丸井を叩き、「わっ、何すんだよ!」と怒る丸井を尻目に下駄箱を後にした。



教室に向かいながら浮かんでくるのはやっぱり丸井のこと。

丸井の頭はちょっとどうかしてるんじゃないかって思う。
今朝のこともそうだけど、そう思う一番の原因は去年の文化祭が終わってしばらくたったときのことだ。丸井はわたしに「すきだ」と言った。確かに文化祭の準備で一緒になることがあって、しゃべる機会はたくさんあった。けれど、知り合って少ししか経っていなかったのは事実で。丸井がわたしのどこをすきなのかなんてわからなかったし、第一わたしも丸井のことをそんなにわかっていたわけではなかった。だから、そんな関係の時に「すき」と言うなんて正直変わっていると思ったし、何よりそれはわたしにとってあまりにも唐突だった。決してからかって言ってるんじゃないってことは、丸井の目から見て取れたけれど。

「よかったら付き合ってくんない?」

そう言われて、首を縦に振るだけの勇気をわたしは持っていなかった。

そしてそんなことがあったにも関わらず、今は“友達”という関係が続いている。
何の問題もなく。表面上は。

バコンッ

何かが背中に当たったかと思うと、「仕っ返しー」と言いながら隣をすり抜けてく赤い頭。数歩前に行ってからちらっと振り向いた丸井は得意げな顔をして笑ってた。



ねぇ丸井、気付いてないよね?
新学期初日の今日、クラスが違うのに一番最初に会えた友達が丸井で嬉しかったこと。
通学方向が逆だから丸井と会える最初の場所の、この下駄箱で会えたってことがたとえ偶然でも嬉しかったこと。ちょっとでも、去年出会った文化祭のときからは近くなったって思いたいこと。
そして今、わたしの気持ちが丸井に向いていること。









----------------------------------------------------------
2005/5/1
なつめ



next >>



close