勇気がなかった、なんて
今となってはもう、ただの言い訳にしかならないのかな





ステップ バイ ステップ





次の日の2時間目。3クラス合同で行う体育の時間は、よく晴れているから、という理由で陸上をやることになった。日焼けするかなと思ったけど、「まだ春だし、いっか!」と日焼け止めも塗らず友達と教室を出る。すると下駄箱に着くと昇降口に男子が2、3人で群がっていて、背伸びをしたりかがんだりして外を覗いているようだった。その中に見慣れた姿を見つける。

「・・・丸井?」

わたしの声に反応して振り向いたのは紛れもなく丸井だった。何気なく呼びかけただけなのにその目は真ん丸く見開かれていて、そんなに驚かせてしまったのかと少し申し訳なくなった。わたしはただ、丸井のクラスと合同で体育だということがわかって、嬉しくて声をかけただけだったのに。

「なんだ、じゃん。驚かせんなよ」
「なんだとはなによ覗き魔」
「覗いてんじゃねえって。見物してんのケンブツ!ってあーお前としゃべってるうちにあっち行っちまっただろい」

そう言い放って丸井はまた視線を前に戻してしまった。周りの友達とあっち行ったこっち行った言いながらキョロキョロしてる。何を見てるんだか知らないけどこんなバカ構ってても仕方ない。そう思ったわたしは、そんな丸井たちの横を通って友達とグラウンドへと向かう。すると突然、すぐ後ろから「あっ、アレじゃね?!」と言う声が聞こえてきて驚く。いつの間に後ろにいたんだと思いながら振り向くと、丸井の友達と思われる1人がわたし達のいるよりももっと向こう側を指差していた。何気なくその先をたどるとうちのクラスの女子の集団。その女子の集団の中にひとり、少しみんなと距離をおいて控えめに笑ってる子がいた。あ、確か今年転校生してきた子だ。

(なんだ、さっき転校生見てたのか)

転校生が来たと耳にするとと気になるのは当然で、見たいと思うのは人として変なことじゃない。深く考えることじゃない。なのに、次にわたしの耳に届いた丸井の一言が、たやすくわたしの胸の中をかき乱す。

「へー結構可愛いじゃん。ああいう子と一回付き合ってみたいもんだよな。狙ってみっか」



それからの授業なんて全く頭に入らなかった。

去年のあの日、丸井はわたしに告白をしてわたしはそれを受け入れなかった。その時から何か変わってしまったんだ、きっと。ずっと友達という関係が続いている、前より互いのことを知れて仲良くなった、そう思っていたのはわたしの勝手な思いあがりだ。あの時振っておきながら、今更、すき?そんな都合のいいこと許されるはずがない。いつかまた丸井が告白してくれるんじゃないか、まだわたしのことをすきでいてくれるんじゃないか。あるわけないと自分で否定しておきながらも、そんな期待を抱いてる自分は愚かだ。丸井がまだわたしをすきだなんて保証はどこにもないことに今更気付かされる。

あの時、頷いておけばよかった。今こんな気持ちになることがわかっていたら、丸井の気持ちを受け入れていたのに。こんな思いをしなくて良かったのに。悔やんでも仕方ないけれど、後悔ばかりが頭をよぎる。

もしあの時OKしていたら、今頃わたしは丸井と手をつないだりデートをしていたのだろうか。
笑いあって、キスをして、抱き合って――

そんなことを考えて、大きく頭を振る。今更どうしようもないのだ。わたしにはもうその特権を持つチャンスはない。それを持つことができるのは、たとえばあの転校生みたいな子だ。

・・・けれど、やっぱりいやだ。丸井が他の子と楽しそうに付き合っているのなんて見たくない。

(ねぇ丸井、お願い。わたし以外の子と付き合わないで)

そう思って今気付く。
わたし、こんなに丸井のことがすきだったんだ。










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2005/5/1
なつめ



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