「切原くん、切原くん」 はいっつも俺のことを苗字で呼ぶ。なんだかなーって思うんだけど、振り向くとそりゃもう嬉しそうな顔して俺の名前連呼しててさ。その顔があまりにかわいいもんだからまぁいいかって、そう思ってるうちに2週間も経っちまった。俺的にはそろそろ名前で呼んでくれてもいい頃だと思うんだけど、はまだ俺の名前を口にしない。名前呼ぶのなんて彼氏彼女は当たり前だよな?現に俺は付き合いだしてからって呼んでるし。なのになんでだ?俺たち付き合ってんじゃねーの?まさか俺の名前知らないとか?んなワケあるか。仮にも告ってきたのはの方だし。いや、あれを告白っつっていいのかはわかんねーけど。 確かあの不思議な告白は2週間前の部活が終わった後、家に帰ろうとチャリ置き場に行ったときのことだ。 その日はなかなかチャリ鍵が見つかんなくて、薄暗い自転車置き場で鞄の中をあさってた。そしたら急に「切原くん!」って呼ばれて、反射的に顔を上げたら見たことのある女の子が立ってた。そう、それがだったワケ。誰だかわかったときはそりゃもう驚いたっつーかなんつーか。だってあまりに意外だったから。同じクラスとは言えど、そん時までとしゃべった記憶なんて俺の中にはなかったし。だから何だろって思った。 そして目が合って数秒後、ジジッと自転車置き場の蛍光灯が点くことを合図にしたように彼女は口を開いた。 「あのさっ、わたし、切原くんのこと好きみたいなんだけど、友達になってもらえない?」 「マジさーあの告白・友情宣言には、テニスで鍛えた俺の抜群の判断力も停止したって」 「あ、あれは切原くんと面と向かって話すの初めてだったから緊張してたんだもん」 デートの帰り道、と並んで歩く。 「でも“好きみたい”ってのはないっしょ。“みたい”って」 「や、だから話したことないわたしなんかに好かれてキモいって思われたら嫌だなと思って」 「しかも“好き”って言葉使っておきながら、“友達になってもらえない?”だし」 「だって友達でもないのにいきなり付き合ってなんて言えないじゃん」 そう言ってはむーっとむくれた。(ヤベ、かわいい) あん時、俺に告白・友情宣言した時ののことは今でもよく覚えてる。凛とした声に真っ直ぐに俺を見つめる目。けれどそれとは裏腹に真っ赤な顔。そして極めつけとも言えるなんだか良くわかんない台詞。積極的なんだか消極的なんだか全っ然わかんなかったけど、それまでいきなり「好きです、付き合って下さい!」としか言われたことのなかった俺にとって、インパクトだけはめちゃくちゃあった。 「友達、でいーわけ?」 まさかそんなわけねーだろと思って聞くと、彼女は勢い良く「うん!」と頷いた。そりゃもう嬉しそうな顔で。おいおいマジかよ。フツー付き合ってくれとか言うとこなんじゃないの?!ちょっと!なんて俺はあまりに意外な返事に自分の中で突っ込みを入れ、思わず言っちゃったワケだ。 「つーか俺ら1年も同じクラスなんだからもうとっくに友達じゃん。どーせなら付き合う?」 「でも、あの時勇気出してみてよかったなーって思うー」 むくれていたが前を向きながらもぼそぼそ話し出す。 「まさか付き合う?なんて言われるとは思ってもみなかったけどね」 「お前さ、ホンっとに俺と友達になりたかったワケ?」 「うん。だって話してみたかったんだもん、切原くんと」 「そりゃ話したことなんてなかったけどさ、告ろうとか思わなかったのかよ」 「フラれたら話せなくなっちゃうじゃん」 「へーそんなに俺と話したかったんだ」 そう言うと、は顔を赤くして「そーだよ、文句ある?」と口をとがらせた。ヤベ、またかわいいし。 「つーかさ、そしたら俺付き合おうなんて言わなくて良かったんじゃん」 そう言って「だって友達で良かったんだろ?」とも付け足す。 ま、んなこと本気で言ってるワケねーけど。たださっきからがいちいちかわいいからちょっといじめてやろーって思っただけ。だってきっと仮に友達になってたとしても、多分この2週間の間に俺絶対告ってる気するし。 ・・・なんて、もし今の俺の言葉にが泣き出しでもしたら、この言葉を言ってやろうと思った。それで俺のこともっと好きになってほしいって思った。(なに、俺ってドS?あーつーかマジなんでこんなににハマってんだろ俺。) でも俺は忘れていた。仕掛けた相手があんな告白(?)をしたであることに。 は「んー」と首を傾げて、それからひらめいたようにパッと俺の前に回りこんで言った。 「きっと友達になってたら、今頃はもうわたしが告って付き合ってるだろうから一緒だよ!」 「友達になってたって今みたいに切原くんのこと大好きになってるもーん」なんては満面の笑顔で言う。おいおい、俺の気持ちは無視かよ。お前が告ったら俺はお前と付き合うのかよ!そーかよ。そーだよ!(ヤケ)つーか今俺のこと大好きとか言わなかった!?あー俺今すげーしあわせ感じてる気する。 (・・・てか俺マジ情けねー。やってやろうと思ったのに逆にやられてるし) また俺の隣に戻ってきたの方に、完敗の視線を送った。するとお返しなのか何にも考えていないのかわかんねーけど(たぶん後者)、にっこにこの笑顔で「すっごいしあわせだよ?」なんて言ってくるもんだから、あーもうホント、マジ、かわいすぎて離したくねー、なんて柄にもなく思っちゃうワケで。 (これがな―・・・) 突然俺に投げられる直球。いや、直球じゃねーな。変化球。変化球なんだけど、速ぇの。しかも普段控えめな分、余計に、こう、くる。それに俺はやられるわけだ。そりゃもう見事に。からの変化球が俺のハートにストライク!切原くんアーウト! 「どーしたの?切原くん」 「ん?ああワリ、何でもね・・・っておい!」 「えー手繋いでもいいでしょ?繋ごうよ!」 「つーかもう繋いでんじゃん!!」 俺の手をがっちり握って「えへへ」と笑ってる。なんだこの積極性。どっから湧いてくんの? しかも「切原くん顔赤いー」なんて、あいてる方の手で俺のほっぺたつっついてくるし。 2週間前まではろくにしゃべったこともなかった。 ただ同じクラスで同じ空間を分かち合うだけの存在。キョーミも何もない。 だけど、今こうして隣に並んで、手を繋いで、笑って。二人だけの時間を共有する。 嬉しそうに俺にぴったり寄り添ってくる。それを見て愛しいなって思う。しあわせだなって思う。 (わっかんねー。人生ってほんっとわっかんねー) 一体はこれからどれくらいのストライクを俺に投げてくるんだか。 まぁそんなの当然予想不可能なワケで。また、それが楽しみでもあったりする。 とにかく、予測不能でも何でも全部愛してるし! なーんて、たった2週間で思っちゃう俺って、相当やばい? けど、なんか今まで感じたことないくらい幸せだから、もうそれでオールオッケーオールライト! (あれ?つーか俺のこと名前で呼んでほしいんだけど) |
ストライク、バッターアウト!
Powered by NINJA TOOLS
close |