家に向かって歩く。浮かんでくるのは後悔だけだった。やっぱり周りの目なんて気にせず渡せば良かったのだ。わたしなんて高尾にとってはただの友人の一人にすぎないだろう。たとえプレゼントを断られたって、噂になるのもせいぜい3日がいいところだと思う。こうしていつまでもすきな気持ちをこっそり持ち続けるなら、いっそ今日決着をつけてしまえばよかったのだ。

(そうしていつか、高尾じゃないひとをすきになって、)

そう考えて、胸がズキンと大きく痛んだ。
ちがう。そんな気持ちで高尾のことをすきなわけじゃない。
本当は受け取ってほしい。笑ってほしい。
たとえばこんな寒い日に手を繋いで。そうして、あったかいねって笑って一緒に帰りたい。

思ってたより自分が高尾をすきだったことに気付いて、さらに後悔が大きくなった。
ばか。本当にばか。わたしのばか。

立ち止まって夜空を見上げる。空は雲ひとつなかった。優しく地上を照らす月が、滲んだ。
深く、深く、一つ深呼吸する。吐く息はまだ無色。白くなるのも、あともう少しだろうか。



そう考えて空を見ながらゆっくり歩いていると、後ろから走る音が聞こえてきた。ランニングにしては速すぎる気がして、思わず身を固くする。そういえば最近下校中の学生を狙った変質者が出ているという話を聞いていた。恐怖を感じ、鞄を胸に抱えて急ぎ足で歩きだす。

「ちょっ・・・ハァ、ちょっ・・・待っ・・・!」

突然話しかけられてビクッとしたものの、その聞き覚えのある声に立ち止まって後ろを振り向く。
そうして暗い中視界に入ったのは、3mくらい先の街灯の下、肩で大きく息をしながら立っている高尾だった。

「えっ、高尾?!ど、どうしたの?帰ったんじゃ、」
「どうしたのって、どうしたのじゃねーっつの・・・・・・帰んなよもう・・・諦めてたじゃん」

諦めてた――そう高尾は言ったが、その言葉の意図するところを考える余裕はなかった。ゆっくりとこちらへ近づいてくる姿に、わたしの足も自然と彼の方へ向かう。泣いていたことがバレないよう、すんと鼻をすするのが精一杯だった。

向かい合った高尾の髪は少し乱れていて。呼吸を落ち着かせながら彼は口を開いた。

「さっき・・・、来てくれたって、」
「あっ、えっと、その、それは・・・」

まさかあの緑間くんが高尾に言ったのだろうか。わたしが高尾を探しに体育館へ行ったことを。そもそも、彼はわたしが高尾を探しに行ったことに気付いていた?突然の出来事で混乱するわたしをよそに、高尾は続ける。

「なんかあったのかなって、後ろ姿見えたし、その、追っかけてきちゃったっつーか・・・」
「あ、用っていうか・・・えっと、その、」

今起こっていることに頭がついていかず、しどろもどろになる。とりあえず何から言うべきかを考えたくても、目の前の高尾がわたしをじっと見てくるからうまく考えられない。顔が熱くなる気がして、たまらず俯く。

すると、目の前でハハッと笑い声がした。顔を上げると、高尾が頭をかきながらヘラっと笑っている。

「ワリー。いきなり追っかけられてビビるっつーのね。大した用でもないのに、マジごめん。オレちょっと浮かれちゃったっつーか」

マジでナイよねコレ、と言って、高尾は少し寂しそうな表情で笑った。高尾の口から出た“大した用じゃない”という言葉に胸が凍るようだった。自分で言った言葉は、そのまま高尾に伝わってしまったのだ。発した言葉の責任の重さを痛感する。

「ち、ちがうの!それは、その・・・」

しどろもどろになりながらも、あわてて両手を前に出して否定する。
高尾にそんな笑い方をしてほしくなかった。

「こ、コレ!」

鞄を開けて、ガバっと差し出す。
それを見た高尾の顔が変な顔になる。予想外というかガッカリというか、なんとも言えない表情だ。

「・・・まさかコレが用だった?」

わたしが差し出したのは先週高尾から借りた音楽の教科書だった。

「マジか・・・」

音楽の教科書を手にとって項垂れる高尾を前に、わたしは意を決して鞄の中の黄緑色の袋を手に取った。チャンスは今しかないと、混乱した頭でもそれだけはわかった。心臓が口から出るんじゃないかというくらいバクバクしている。すうっと大きく息を吸い込んで、えいっと鞄の中からプレゼントを出す。そして、想いを言葉にのせる。

「た、誕生日おめでとう!これ、プレゼントなの」
「へ?」

高尾の前に突き出すようにしてプレゼントを差し出す。その手は情けないほどにガタガタ震えている。

「本当はコレが渡したかったの。でも、受け取ってもらえないだろうなって思ったら、渡せなくて、それで、それで・・・」

言葉がうまく出てこない。どんな反応されるのかこわくて高尾の顔も見れず、わたしは俯いて続ける。

「一生懸命選んだの。ただ受け取ってほしいだけなの。もらってもらえない、かなぁ・・・」

頑張って紡いだ言葉は、最後が泣き声のようにへにゃっとなってしまった。すきな子からしか受け取らない。それがわたしであるかなんてことはわからない。だけど、どうしてもこのプレゼントだけは受け取ってほしかった。本当に一生懸命選んだ。本当にすきだから。だからせめて、これだけでも。

すると、高尾が一歩踏み出したのがわかった。それとほぼ同時にフワッと手が温かくなる。
おそるおそる顔を上げると、プレゼントを持ったわたしの手を、高尾の大きな手が包んでいた。

「自惚れてい?」
「え?」
「ほしかったの、コレ」
「へ?まだ中見てないでしょ?」
「ぶふぉっ!ちょ、、今朝からの噂聞いてたんだよな?だから渡せなかったって」
「う、うん」
「だからさ、そーいうことなんだって。わーかーる?」
「う、うん・・・?」

高尾がわたしを覗き込むようにして言う。
顔が近くて、なにも考えられない。どういうこと?ねえどういうことかみさま?
だんだん顔に熱が上ってきて、そんなわたしを見かねてか高尾が「あーもう!」と息を吸い込む。

「だから!オレね、のことすきなの」

衝撃の告白に俯いていた顔を上げると、「あー言っちゃったよついに」と、ブツブツ言っていた高尾がギョッとして慌てたようにそっぽを向く。

「ちょっ、いきなり顔上げんな!」

そう言った高尾の顔は、耳まで真っ赤だった。

「・・・なんだよ。いつまで見てんの?オレ穴あいちゃうよ?」

照れ隠しなのか、少し拗ねたように言う高尾がなんだか可愛くて笑ってしまう。「結構高尾のこと見てきたつもりだったんだけど、まだ穴あいてなかった?」と冗談めかして言うと、高尾は一瞬何かを思い出したかのように目を見開き、そして笑った。

「もー、そーいうこと言っちゃう?それもうあれだよね、オレのことさ」
「うん、すきだよ、高尾ー・・・」

そう言うと同時に高尾はさらに一歩距離を縮め、そのままわたしを抱き寄せた。プレゼントごと全部。高尾の胸に顔が押しつけられる。走ってきたせいか、すぐにじんわりと温かさが伝わってくる。

「・・・ヤバいマジチョーうれしい・・・」
「高尾、これじゃ前見えないよ」
「うん。もちっと、このままでいさして」
「くるしい。高尾の顔見えない」
「ダーメ。・・・離せねえもん」
「・・・え?」
「ホントダメ、無理、オレマジうれしくて泣きそーだし」

そう言って、ぎゅうと高尾がわたしを抱きしめる腕に力を入れる。その言葉と腕の強さにわたしも涙が出そうになって、ぎゅっと目をつぶる。夢みたいだけど、夢じゃないんだって実感する。

「・・・高尾、誕生日おめでとう」

「うん。サンキュ」そう耳元で言う高尾の声が心に染みて、あたたかさが広がる。

高尾にも伝わったらいいな、おんなじだったらいいな、と願って。
少し広い高尾の背中に、そっと手をまわした。










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初黒バス夢はマイ愛しのダーリン高尾くんでした!
一ヶ月近く遅れバースディ!おめでとう!

ちょっとね、他の視点で書きたい部分があって、主人公視点のこのストーリーで、
敢えて書いてない部分がいくつかあります。プレゼントも何だったんだよってね。笑
なので、もうひとつかふたつ、付属の話をあげられたらいいなぁと思ってます。がんばります。
2012/12/15 なつめ





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