長く続いた雨が明けると
カラッとした暑さと眩しい日差しが 人々の気持ちをも明るく包む
けれど わたしのココロは対照的で
それはまるで わたしが空の雲を全部吸い込んでしまったかのよう








     渇 い た 雲








ほんの10分前。
ざわつく教室の外から「侑士」と呼んだ彼女の声と、わたしに「すまん」と謝って彼女の元へと走っていった忍足の後ろ姿が頭から離れない。そんなの、わかってることだけど。



ー?」
「なーにー?」
「今日の昼、一緒食お」

決まって週に何度か、午前の授業の間にわたしと忍足との間で交わされる言葉。今日もこんな風に約束をしていた。嬉しいけれど、わたしに声がかかるのは忍足が彼女と昼食を食べられないとき。彼女がダメだからわたし――なんて、ただの都合の良い女みたいで複雑ではあるのだけれど、わたしがそれを断ることはない。そのことに彼は気付いているのだろうか?

今年のクラス替えでわたしと忍足は同じクラスになった。忍足とわたしは友達であって、そして忍足はわたしのすきな人。普通ならすきな人と同じクラスになるなんて飛び跳ねるくらい嬉しいのだろうけど、わたしははっきり言って全く喜べなかった。だってわたしは忍足がすきで、忍足はわたしではない子がすきなのだから。だからいっそ、クラスが端から端まで離れてしまえばいいのにと思っていた。なのに、まさか同じクラスになるなんて。神様は本当にイジワルだと思う。

そう、だからわたしがまだこの気持ちに諦めがついていないのはきっと神様のせい。

今日もさっきの誘いに対してわたしは「いいよ」と一言返した。すると忍足は「やった。ほな天気ええし、屋上かどっか外でな」と、目を細めて笑った。わたしのだいすきな笑顔で。多分その笑顔も諦めがつかない原因の一つだと思う。たいしたことでもない、ただお昼を食べるだけなのに忍足は嬉しそうに微笑むから。だから、その笑顔を見るたびにわたしは勘違いしそうになって、そしていつも恥ずかしくなるんだ。違う、忍足がすきなのは自分じゃないんだ、と。そんな思いを隠すためにいつもふざけて返す。今日だって、そうだった。

「うん。あ、何なら飲み物とかおごってくれちゃってもいいよ」
「アホ!俺は今月ボンビーなんや!シクシク・・・」
「はあ?医者の息子のクセに何言ってるんだか・・・」


あの頃から変わっていないのは友達という関係で。

「むしろお前が俺におごらなアカン!そーいや、夢で神様が言うとったで!」
「何て?」
「“今日そなたはにおごられる運命にある”ってな!おつげやおつげ!」
「ばーか。男が百円くらいケチんじゃないのっ!」




変わり続けているのは、抑え切れずに大きくなっていく、わたしの中の忍足侑士という存在。










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UP: 2004/10/10  TOUCH IN:2008/10/14
なつめ



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