いつだってわたしのことを考えてくれるアナタにわたしは気付きもせず。









02.王子様








「はぁ・・・」

目の前にあるパソコンと部活の記録ノートを見てため息が出た。

今は放課後。テニス部のマネージャーとして、今月の試合結果や出費、来月の予定などを表にしているところだ。ひとりでコンピューター室に来て、パソコンとにらめっこを始めてもう軽く1時間は経過している。いい加減目も疲れてきたので、窓の外に目を移し、ぼんやりと降りしきる雨を眺めた。止みそうにない雨に、空一面に広がる雲。この天気だけでも気が滅入るのに、静かに指示をする幸村や、副部長なのに部長より張り切って大声を出している真田、それに部活後ににこにこして駆け寄ってきてくれる赤也を見ていないせいなのか、何だか調子が出ない。

この雨のお陰でわたしはこうしてマネージャー業務に専念していられるわけなんだけど、さすがに広いコンピューター室にひとりという現状に寂しくなってきた。誰か呼び出して手伝わせようか・・・、そう思ったけど今日に限って珍しく部活が休みになったことに気付いて、またため息が出る。まぁ真田あたりは真面目に筋トレとかしてそうだけど、真田を呼び出したところで言われる台詞には予想がつく。きっと「俺に頼むとは、たるんどるな。全くだ」とか何とか一人で言って一人で勝手に納得して終わるんだ。つまり、結局頼りになるのは自分だけ。

(仕方ない、頑張ろう。帰りたくっても傘なくて帰れないんだし)

そう思ってまたパソコンに向き直って、文字を打ち込んでいく。面倒なもの(お金の計算とか)は最初の方で終わらせてしまったので、集中すればすぐ終わるだろう。終わったときに雨がやんでればいいけど。


カタカタカタカタ・・・


気合いを入れてキーを打ち出したものの、それも長くはもたなかった。あと3分の1くらい打ち込まなきゃいけないことがあるっていうとき、ひどい眠気に襲われた。昨日の夜、英語の予習が終わらなくてうつらうつらしながら3時くらいまで頑張ってたのが今頃になって裏目に出るとは。

(あーでもやらなきゃ・・・)

とにかくノートに書いてある来月の予定を日にちごとにまとめてみる・・・けれど、自分で打ったのをよく見てみると、14日の内容が21日になっていたり、「練習試合」の文字が「練習慈愛」になっていたりした。

(ダメだ・・・ちょっとだけ・・・)

一瞬でもそう思ってしまえば寝る態勢を作るのは早い。さっと腕枕を作って、そこに頬をくっつけた。横向きで寝るとよだれが垂れるかな、そんなことが一瞬頭をかすめたけど、誰もいないからいいやという結論になった。(要は眠いだけ)

自分ではいつ寝たかなんてわからないけれど、多分すぐ寝付けたと思う。
寝ている途中、ギリギリで残っていた意識の片隅で、わたしはわたしの肩に何かが擦れたような気がした。




何だか肌寒く感じて、目を覚ます。

(あれ?家じゃない・・・ここどこだっけ・・・?)

目の前で光るデスクトップ画面を見て、ここがコンピューター室であったということを認識するのに数秒かかった。やけに教室内が明るく感じるなぁと思って外を見ると、外はだいぶ暗なっていて、しかも雨はまだやんでいないようだった。

「やば・・・っ!ていうか今何時・・・!?」

思わず大きな声が出る。恐る恐る時計を見ると針は7時を指していた。うっかり寝過ごしてしまったことを改めて思い知らされる。

「急いでパソコンで来月の予定打ち出さなきゃ!えっと、20日に氷帝と練習試合・・・ってあれ?」

目の前の画面には既に来月末までの予定が打ち出されていた。いつの間にやったのだろうか。自分の記憶にないことがやってあるという事態に驚いて手元にあるノートとパソコン画面とを何度も見比べてみるけれど、どこにも間違いはない。当然頭の中に浮かぶのはたくさんの?マーク。とは言え時間も時間だし、とりあえず印刷しておこうと思い、疑問を抱えたままファイルを印刷する。

コピー機から出てきた資料をまとめ、屈んで床に置いておいた鞄の中に入れる。
すると、ちょうど目の前にビニール傘が掛けられてあるのに気がついた。

(・・・?誰のだろ?)

見覚えはないし、最初わたしが教室に来たときもなかった‥と思う。誰かがわたしのためにおいていってくれたのかな?まさかな、そんなことあるわけない。そう心の中でひとり突っ込みをしながら、ふと寝ていたときに感じた気配を思い出す。その人が忘れていったのだろうか?

どうしようかと迷った挙句、窓の外の激しい雨に負けて拝借することにした。
玄関で傘を開いてみると、その傘はちょっと土ぼこりがついていて、おまけに一本骨が曲がっていた。

暗くなった道をひとり、ちょっと形の変わった傘をさしながら歩く。
ひとりだけど、ひとりじゃない、そんな感じを味わいながら。

そして、そんな見えない傘の持ち主に感謝しながら。













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暗かったらどんな傘でもさせたりしますよね!笑

2005/03/20 UP
2008/02/02 加筆修正
なつめ



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