青い空に 照りつける太陽
この間までひんやりとしていた背中のコンクリートも 少し熱い
だけど わたしはこうやって空を見上げるんだ
空を見ていれば わたしの存在なんてすごくちっぽけなんだって思えるから








      渇 い た 雲








「ふあーあ」

結局一人の昼休み。いる場所もなくて、屋上でひとり寝転がる。本当は立ち入り禁止の場所。けれど一箇所だけ窓の鍵が壊れているため、それを知っている生徒はこっそり出入りしていた。わたしもその中のひとりで、良いことがあったとき、悪いことがあったとき、とにかくひとりになりたいときに来る。風が気持ちよくて、気に入っている場所のひとつなのだ。

「今頃、忍足は彼女とランチタイムか・・・」

つぶやいてゴロンと寝返りを打つ。

「彼女との昼より友達との昼を楽しむヤツなんていないもんなぁ・・・」

ため息交じりの言葉ばかりが出た。忍足がわたしより彼女を優先することはわかってる。
わかってるけど、でも。

“すまんな”
“いいよ、早く行きなよ”


そう声に出さずに言い、笑って見送った。

 は や く い き な よ 

そう、言ったクセに。ウソつき。まだ心のどこかで期待してる。
『すまんすまん、やっぱ無理やって。ここで一緒食ってええ?』そう言って、笑いながらわたしを捜して来てくれる忍足を期待している。階段を駆け上がってくる足音を待って耳を澄ましている自分が、いる。来るはずなんて、ないのに。

昼も食べずに、どれくらいぼーっとしていたんだろうか。ふと起き上がって携帯を開くと昼休みも残り10分。あと10分であの騒がしい教室へ戻らなくちゃならないと思うだけで何か疲れを感じる。ギリギリまでここにいよう、そう思ってまた寝そべろうとしたとき、いきなり近くでわたしを呼ぶ声がした。

っ」

びっくりして半分寝かかった体を起こすと、そこにはににこにこしてわたしを見ているジローくんがいた。

「あ、あれ?どーしたの?もうお昼休み終わっちゃうよ?」
「今まで寝ててさー。なんかだれも起こしてくんないんだもん」

膨れっ面でジローくんは言った。「お昼は?」と尋ねると、「まだだよ」と、彼は手に持っている袋を振る。(おそらく袋にはコンビニで買ったサンドイッチか何かが入っている。)

ジローくんはくるくるの髪をした、かわいい男の子。かわいいけど同い年で、わたしと同じクラス。しかもテニス部。うちの学年はクラス数が多いのに、なぜかわたしのクラスにはテニス部(正レギュラー)が2人もいる。2人のうちの一人は、今わたしの目の前のジローくん。もうひとりは、忍足。

「んじゃさ、確か次の時間自習だし、サボってお昼一緒に食べよっか?」
「さんせー!!」

そう言ってジローくんはわたしの隣に腰掛けた。ジローくんは教室ではたいてい寝ている。そのためか、わたしは彼がクラスの子とまともに会話してるのを見たことがない。けれどそんなクラスメイトのうちの一人でも、わたしだけは例外だと思う。実はジローくんとわたしは高校1年の時からずっとクラスが一緒なのだ。そして何度も席が近くになってるうちに、ジローくんの方から話しかけてくれたのである。その記念すべき第一声が、「なんかけっこういっしょのクラスだよね?」まさか自分のことを覚えてくれているなんて思ってもいなかったから、とてもびっくりした。けれど、同時に嬉しかったのを覚えている。
ジローくんと仲良くなって思ったことは、彼は人の母性本能くすぐるところがある、ということ。例えば、移動教室のときに寝ている彼を起こすとむにゃむにゃ言いながらついてくるところとか、授業中当てられたときに「えっと、えっと」なんて考えてるところとか、どこか放っておけない。だから、いつも助けてしまう。ジローくんと仲良くなれたのも、そのせいなのかもしれない。

「それじゃ、いっただっきまーす」

5時間目が始まるチャイムを聞きながら、わたしはお弁当を包みから出す。フタを開けておかずをパクっと口の中に入れると、ジローくんがにこにこしながらこっちを見ていた。

「あれ?食べないの?」
「ううん、何かってホントおいしそうに食べるなーと思って」
「悪かったわねー、どうせ食べるの好きだもん」
「そうじゃなくてさ、かわいいなって」
「あはは、ありがと。食べてるときだけ可愛い女です」
「ちがうよ、がかわいいって言ってるんだよー。あ、からあげ入ってる!」

軽い冗談だと思って流したのに、さらっと返されて言葉が出てこなかった。ドキッとした。だってかわいいなんて男の子に言われたのは初めてだったから。・・・そう思って、忍足にもかわいいなんて言われたことがなかったと思い至る。そして1度だけでもいいから言われてみたかったな、と。・・・そんなことを思ったって、これから先言ってもらう機会すらないのだろうけど。

?」
「あ、ごめん。何でもないよ。それよりジローくん、からあげほしい?」

箸でからあげをはさんでジローくんの方を向く。すると彼は「あー」と返事をするより先にわたしに向かって口を開けた。これはきっと口に入れてというサイン。

「はい、あーん・・・って、ジローくん?」

本当に子供の世話をしているみたいだと思いながら、ジローくんの口の近くに箸をもっていくと、ジローくんはその先のからあげをぱくっと一口で口に入れた。でも、箸ごと加えたままからあげを離そうとしない。何だろう、と思ってちょっと強く箸をひっぱってみると、ジローくんの口の中にからあげを残し、箸はすぐに引き抜かれた。するとジローくんがにっと笑って言う。

「えへへ、間接ちゅーしちゃった!」
「・・・!もう、ジローくんったら!」

満面の笑みのジローくんと、間接キス、という事実に恥ずかしくなって、わたしはわざと怒ってみせた。するとそのとき、ガラッと少し離れたところから音が聞こえて。驚いて振り向くと、屋上への出入り口となっている窓からわたしのよく知っている顔が覗いた。

「・・・忍足」

わたしのつぶやいた言葉が聞こえたのか、ジローくんもすぐに忍足に気付いた。「おしたりー!」と、手をぶんぶん振って呼んでいる。その様子を見てか、忍足が小さい窓から屋上に出てわたしたちの方へ歩いてきた。手には袋を持っている。

「どしたのー?おしたり」
「いや、別に用はないんやけど、教室から見えてん。次、自習で暇やし」

ジローくんの問いに忍足はそう答え、わたしの方を見た。

「コレ。今日昼一緒食えんかったし、おごったるわ」

そう言って、袋から取り出し投げられたのはジュースのパック。「ジローにもおまけ」と、ジローくんにもパックを投げていた。

「え〜おれコーヒーなんて飲まないよー」
「うるさい。もらえるもんはありがたくもろとき」

ジローくんはそんな忍足の言葉に唇をとんがらせながらも、「ほかにも何か袋に入ってるだろー?」と袋を指差した。けれど忍足はそんなことも気にせず、「ほな、俺行くわ」と言って、わたしたちに背を向けて歩き出してしまった。待って、わたしまだお礼言ってない。

「忍足!コレ、ありがとね!」

パックを掲げてそう声をかけたら、忍足は振り向いてやわらかく笑ってくれた。










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WRITE:2003/11/3  UP:2004/11/13  TOUCH IN:2008/11/13
なつめ



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